最高裁判所第三小法廷 平成7年(行ツ)67号 判決 1996年5月28日
上告人
五来栄子
被上告人
国
右代表者法務大臣
長尾立子
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第五ないし第七点について
所論は、要するに、第一審裁判所は、本件訴状を被告に送達しないまま、口頭弁論を経ずに訴えを却下し、その判決正本をも被告に送達せず、また、原審裁判所も、同様口頭弁論を経ずに控訴を棄却し、控訴状及び判決正本を被告に送達しなかったが、このような一、二審の判断及び措置は、民訴法一二五条、一九三条一項、二二九条等の規定及び憲法七六条三項、八二条に違背するというのである。
確かに、訴えが不適法な場合であっても、当事者の釈明によっては訴えを適法として審理を開始し得ることもあるから、そのような可能性のある場合に、当事者にその機会を与えず直ちに民訴法二〇二条を適用して訴えを却下することは相当とはいえない。しかしながら、裁判制度の趣旨からして、もはやそのような訴えの許されないことが明らかであって、当事者のその後の訴訟活動によって訴えを適法とすることが全く期待できない場合には、被告に訴状の送達をするまでもなく口頭弁論を経ずに訴え却下の判決をし、右判決正本を原告にのみ送達すれば足り、さらに、控訴審も、これを相当として口頭弁論を経ずに控訴を棄却する場合には、右被告とされている者に対し控訴状及び判決正本の送達をすることを要しないものと解するのが相当である。けだし、そのような事件において、訴状や判決を相手方に送達することは、訴訟の進行及び訴えに対する判断にとって、何ら資するところがないからである。
ところで、記録によれば、本件訴えは、上告人が、通算老齢年金の支給裁定の変更を求めて提起した訴えについて、第一審裁判所が請求を棄却し、控訴裁判所が控訴を棄却し、最高裁判所が上告を棄却する旨の判決をしたのに対し、国を被告として、更に右判決の無効確認を求めるとともに、右裁定の変更を求めたものであることが明らかである。このように、最高裁判所まで争って判決が確定した後、更に右判決の無効確認を求める訴えは、民事訴訟法上予定されていない不適法な訴えであって、補正の余地は全くないから、このような訴えにつき、訴状において被告とされている者に対し、訴状を送達することなく口頭弁論を経ないで訴えを却下し、その判決を右被告に送達しなかった第一審裁判所の判断及び措置並びに同様に控訴状の送達をせずに口頭弁論を経ないで控訴を棄却し、その判決を被控訴人とされている者に送達しなかった原審の判断及び措置は、いずれもこれを正当として是認することができる。したがって、右措置に、民訴法一二五条、二二九条及び一九三条一項違背の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。また、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。原判決及び一、二審の訴訟手続にその余の所論の違法もなく、論旨は採用することができない。
同第一ないし第四点について
原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原審の法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原審の判断と関係のない事項をあげて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官尾崎行信)
上告人の上告理由
○ 上告理由書記載の上告理由
第一点 <省略>
第二点 <省略>
第三点 <省略>
第四点 <省略>
第五点 <省略>
第六点 原判決は、法意を歪曲して判断し、判決に影響を及ぼすこと重大かつ明白なる民訴法及び憲法違背がある。
一 原判決は、「事実及び理由第二の三の3」において「控訴人は原審裁判所が本訴の訴状及び判決を被控訴人に送達しないのは民訴法二二九条及び同法一九三条に違反する旨主張する」とした。
二 然し乍ら、訴えを不適法として却下する場合は、「訴状及び判決を被控訴人に送達しなくても、何等違法ではない」と判断しても、民訴法二二九条一項には「訴状ハ之ヲ被告ニ送達スルコトヲ要ス」とあり、さらに同法一九三条一項は、「判決ハ交付ヲ受ケタル日ヨリ二週間内ニ之ヲ当事者ニ送達スルコトヲ要ス」と規定し、原判決が判示した「訴えを不適法として却下する場合は訴状及び判決を被告に送達しなくてもよい」旨の法文は、民訴法のいずれの法条を見ても見当らない。
三 従って原判決は、憲法七六条三項で定めた、「この憲法及び法律にのみ拘束される」べき裁判を、民訴法その他これらに関連するいずれの法条にも該当しない法意を歪曲塗沫改ざんして、恣意独断の判断を行い、判決に影響を及ぼすこと重大かつ明白なる法令及び憲法に違背しているから、原判決は原審へ差戻されるべきである。
第七点 <省略>